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2023.5.12
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瀬古酒造の外観

甲賀の[瀬古酒造]を訪ねてみた/滋賀・びわ湖の酒蔵を訪ねる

日本一の湖・琵琶湖を中心に平野部が広がり、その周りの山々からの伏流水が今でも多くの酒蔵の仕込み水となっている滋賀。個性豊かな酒蔵と日本酒造りへの思いに注目する。第10回目は、甲賀の“地味”に魅了されてこだわり続ける酒造りをする、甲賀市甲賀町にある[瀬古酒造]をたずねた。

1.これが日本酒! 本当の味を知った20代

「当時は若いし、いい店なんか行けなくて、美味しい日本酒なんて飲んだことなかった。ウォッカだとか、ジンだとか。ワインが流行り始めたくらいの時期でしたね」と話す[瀬古酒造]代表取締役の上野敏幸さん。
振り返っているのは、初めて[瀬古酒造]のお酒を飲んだ時のことだ。

瀬古酒造の上野社長

[瀬古酒造]は上野さんの妻・篤子さんの実家。埼玉県出身で、東京で広告関係の仕事をしていた敏幸さんが、同じく東京で出版社に勤めていた篤子さんと出会ったのは20代の頃。篤子さんの実家で造った日本酒が送られてきて…。「これが日本酒なのって驚きました。まさかその時は造ることになるとは思ってませんでしたけど」。それまで抱いていた日本酒のイメージとは違う味や香りに惹かれつつも、「しばらくは他人事」だったと笑う。
26歳で篤子さんと結婚してからも、二人は東京で暮らし、敏幸さんにとって[瀬古酒造]は、時折訪ねる妻の故郷という存在だった。

瀬古酒造から見える風景

[瀬古酒造]があるのは、JR草津線の油日駅の近く。次の柘植駅はもう三重県だ。山と田畑に囲まれ、東京とはあまりに違う環境だが、どこか肌に馴染むものはあったそう。「お正月とかに来るようになってからも、『早く東京に帰りたいな』って思うことはありませんでした。確かに都会とは違いますよ。例えば電車。単線で、一時間に一本しかない。都会にいたらそんなのでどうやって暮らすの?って思うでしょうね。電車なんて時刻表を見てなくても、待ってれば次々に来ますから。でも一時間に一本しかないのなら、時間に合わせればいいだけ。うちは駅前にあるし、全然不便じゃない」。

2.東京から甲賀へ、手探りで始まった酒造り

敏幸さんが本格的に酒造りに関わり始めたのは40代。
体調を崩した先代、つまり義父をサポートする必要が出てきたことから、篤子さんを東京に残して敏幸さんが滋賀に移り住んだ。
「そのころは能登の杜氏さんが蔵人を5〜6人連れて来ていましたから、彼らとのやり取りや受発注、配達を誰かがやらないととなって」。こうして酒蔵で働くことになったが、加えて義父が将来的に杜氏を招くのではなく、自分たちでやっていこうと考えていたこともあり、敏幸さんと社員で酒造りそのものに取り組むことになった。

瀬古酒造の仕込みの様子

上野敏幸さん/[瀬古酒造]の五代目蔵元。1958年生まれ、埼玉県出身。約20年前に妻の実家である[瀬古酒造]で、酒造りを始める。代表取締役となり10年ほど経つ

「最初、僕は杜氏がいないとお酒なんてできないと思っていました。でも、何回か杜氏と一緒に造ってみて、自分たちが造りたいお酒と違うと感じて…。それである時、社員と仕込んでみたら、上手くできたんです。そこからもう20年ほどやってます」。
蔵元杜氏として酒造りを始めるも、東京からやってきた門外漢。今こそ蔵元同士の交流も盛んだが、当時は情報交換するような知り合いもなく、酒造りはほとんど独学だった。「寝れない日が続いて…。温度は大丈夫かなって心配になって何度も夜中にタンクを見に行ったりもしていました」という敏幸さんだが、徐々にその奥深さに魅了されていった。「酒造りは、米と水が酒になる“モノづくり”。やることは毎日ほぼ同じなんです。同じことの繰り返しだけど、出来上がるものが全然違う。それはなぜだろうと考える。これが非常に面白くて。だから、何年たっても、一本目の仕込みはしびれるし、緊張します」。

瀬古酒造の仕込みの様子

3.“ずりんこ”が育む米が多彩な味わいを作り出す

敏幸さんのこだわりは、甲賀の米と水を使うことだ。「このあたりは、古代には琵琶湖の湖底だったところです。地元では“ずりんこ”と呼ばれているミネラル分の多い粘土質の土壌のお陰で、良質な米ができます。まだすべてを甲賀産とまではできていないのですが、ゆくゆくは甲賀の米だけでお酒を造りたい」。
水も敷地内の地下水を使用。まろやかながらきりっとした鈴鹿山系の伏流水が[瀬古酒造]の酒を引き締めてくれる。とはいえ、甲賀の味も一つではない。

瀬古酒造の瓶詰め風景

「純米吟醸 忍者 テロワールシリーズ」は、甲賀産の米の違いを酒で楽しむことができる3本だ。「酵母や麹菌、水の割合は同じにして、米だけを変えています。それで味わいがどれだけ変わるか感じてほしい」。
東京から移住し、環境の変化を乗り越えながら、甲賀の米と水が醸す“地味(テロワール)”の魅力を発信する敏幸さん。酒造りの探究は続いている。

瀬古酒造の瓶詰め風景

「電車に乗ってると田んぼが見えるでしょ。毎年、9月を過ぎたころから、やばい、今年も始まる。米が来る! ってちょっと憂鬱になる」とユ―モアを交えて笑いを誘う。別の場所で生まれ育ち、まったく別の仕事を経験してきた敏幸さんだからこそのセンスが、この明治2(1869)年創業の歴史ある酒蔵に新しい風を吹かせる。甲賀での暮らしも、20年以上になった。取材に訪れたときは大雪で、あたりは一面銀世界。
「ここでの暮らし? 中途半端じゃない田舎なので、星がきれいですよ。でもちょっと最近は、寒さが身に染みるかな」。こんな日は熱燗を片手に、夜空を見上げて春を待つのだろう。

4.一度は飲みたい[瀬古酒造]のお酒コレクション

瀬古酒造の純米忍者しぼりたて一番<うすにごり>微発泡

純米忍者しぼりたて一番<うすにごり>微発泡 720ml 1600円/3月初旬から100本限定注ぐとシュワッと軽く炭酸が弾ける微発泡。やや甘い味わいと炭酸の辛味が絶妙。おすすめは冷で

瀬古酒造の純米吟醸忍者PLUS 無濾過原酒生

純米吟醸忍者PLUS 無濾過原酒生 720ml 1650円/滋賀県産玉栄の穀物らしい独特の香りを楽しめる。すっきりとした味わい。おすすめは冷。通年販売

瀬古酒造の純米大吟醸忍者 l'amour

純米大吟醸忍者 l'amour 720ml 2250円/兵庫県産の米、愛山を使用。よく冷やして、酸味と甘みを感じながら飲むのがおすすめ。通年販売

瀬古酒造の純米吟醸忍者NEO 無濾過生

純米吟醸忍者NEO 無濾過生 720ml 1650円/滋賀県産美山錦の豊かな米の風味が詰まった一本。旨辛口の味わいを堪能できる。おすすめは冷。通年販売

瀬古酒造の純米吟醸忍者 無濾過生

純米吟醸忍者 無濾過生 720ml 1650円/滋賀県産銀吹雪を使用していて、米の旨みを感じるやや辛口。冷・燗どちらでも。食中酒としても合う

5.[瀬古酒造]のお酒が買えるところ

■滋賀県
[小川酒店]077-524-2203/滋賀県大津市浜大津2丁目1-31
[加藤酒店]077-522-4546/滋賀県大津市木下町13-1
[近鉄 草津店]077-564-1111/滋賀県草津市渋川1丁目1-50

■京都府
[西本酒店]0120-240-452/京都府京都市中京区姉小路通西洞院西入ル宮木町480
[浅野日本酒店 京都店]075-748-6641/京都府京都市中京区高宮町576−1

6.上野さんおすすめ!ご近所の美味しいアテ①[ヒロ寿司]

ヒロ寿司の海鮮ちらし

海鮮ちらし1100円。近江米のニホンバレを使ったすし飯に、細かく切った水口のかんぴょう、椎茸、高野豆腐を和え、錦糸卵と魚介をのせた人気メニュー

ヒロ寿司

  • ヒロすし
  • 滋賀県甲賀市甲賀町大原市場838
  • JR「甲賀駅」から徒歩4分
  • Tel.0748-60-9444

7.上野さんおすすめ! ご近所の美味しいアテ②[菓子長 野田本店]

菓子長 野田本店の忍術最中

忍術最中1本216円。北海道十勝産の小豆を使ったつぶ餡がぎっしり詰まった細長い形状で食べやすい忍術最中の他、四角く食べ応えあるくノ一最中もある

菓子長 野田本店

  • かしちょう のだほんてん
  • 滋賀県甲賀市甲南町野田594-4
  • JR「甲南駅」から徒歩12分
  • Tel.0748-86-0001

8.[瀬古酒造]の店舗情報

瀬古酒造

  • せこしゅぞう
  • 滋賀県甲賀市甲賀町上野1807
  • JR「油日駅」から徒歩5分
  • Tel.0748-88-2102
  • 9:00~17:00
  • 土・日曜、祝日休
  • 駐車場10台
  • https://www.sekoshuzo.co.jp/
  • PHOTO/高見尊裕、TEXT/瓜生朋美
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