【滋賀の酒蔵を訪ねる①】[平井商店]/大津
日本一の湖・琵琶湖を中心に平野部が広がり、その周りの山々からの伏流水が今でも多くの酒蔵の仕込み水となっている滋賀。個性豊かな酒蔵と日本酒造りへの思いに注目する。第3回目は、日本酒好きに応える“濃醇旨口”ひとすじ、草津市にある[古川酒造]をたずねた。
江戸時代、宿場町として賑わった草津。その面影が残る旧東海道沿いに建つ、白壁と窓の格子が趣ある建物が[古川酒造]だ。この地で酒造りの記録があるのは明治期からで、創業年は不明だが、酒蔵には大きな木桶や古い滑車などが残り、歩んできた歴史の長さが滲み出る。
「記録はないけれど、江戸時代から酒造りをしていたと思います」と話すのは社長で蔵元の古川睦夫さん。それを聞くと、街道を行き交う旅人たちが、[古川酒造]の酒と琵琶湖の魚で草津の夜を楽しむ姿が思い浮かんでくる。
[古川酒造]を語るとき、絶対に外すことができないキーワードが“濃醇旨口”だ。「酸度があり、甘みも残して、アルコール度数はやや高め。酒が好きな人が旨いと感じる味」と話す古川さん。日本酒らしいキレと甘みの両方をしっかりと感じることができる濃醇旨口。さらりとして誰もが飲みやすい味ではなく、ツウ好みのこの味を、古川さんは50年近く守り続けてきた。「お米の持っている旨さ、コクを活かす。米そのものの力を上手くそのまま引き出してお酒にするんです」。
いわば、米を味わう酒。当然ながら米へのこだわりは強い。地元・草津で作られる吟吹雪や、滋賀県で開発されたみずかがみなどを使用し、契約農家が栽培した無農薬、化学肥料不使用の米も用いる。酒のもうひとつの主役である水は、湖南アルプスから琵琶湖に注ぐ伏流水を使っている。とことん滋賀の味を濃縮したのが[古川酒造]のお酒なのだ。
以前は古川さんが杜氏を務めていたが、今は但馬から杜氏を招き、二人三脚で取り組む。そんな酒造りの現場は、通り側に設けられた店の奥。店から一歩足を踏みだすと、そこはもう酒蔵だ。ここで米を洗って蒸せば、蒸気が天井いっぱいまで立ち上り、あたりは米の香りで満たされる。隣の建物にはタンクが並び、中で醪が静かに発酵を続けている。それが[古川酒造]の日常だ。さまざまな道具や装置が並ぶ酒蔵で、ひと際存在感を放つのは、長方形の大きな木の箱「木槽(きふね)」。これを使った昔ながらの「木槽絞り」は、[古川酒造]が守り続ける伝統の製法だ。
醪を詰めた細長い袋を木槽の中に何重にも積み重ねることで、醪自身の重みで圧搾され、酒が絞り出されるというもの。この方法は手間も時間も掛かるが、これでないと、出ない味があると古川さんは言う。「ゆっくりと絞ることで、旨みを損なうことなく、米の味が引き出せるんです」。
米と水、そして製法を守り抜くことで繋がれてきた[古川酒造]の味。「大量に造って広めたいとは思いません。毎年、決まった量を造って、決まった量を売る。それでいいんです。品評会向けのものも造りません」と古川さんはまったくブレない。7年ほど前からともに酒造りに携わる甥の古川毅さんも「社長は酒造りに対しては、誠実で、頑固ですね。でもこの味だからこそ、遠方からも注文がある。個性的な味だけにファンも多いんですよ。僕も今の味を大切にしていきたいと思っています」。
古川さんは酒造りに向き合ってきたこれまでを「美味しいお酒を造りたい、それだけを考えて真面目にやってきた。いろいろな時代の変化もありましたけど、自然に乗り越えられた気がします」と振り返る。杜氏を退いた今も、早朝から酒造りに参加する古川さん。その真摯な姿勢も[古川酒造]の酒に力強さがある理由のひとつだ。
■滋賀県
[近鉄百貨店 草津店]077-564-1111 滋賀県草津市渋川1丁目1ー50
[平和堂アル・プラザ 草津]077-561-6200 滋賀県草津市西渋川1丁目23ー30
など
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