[京都祇をん ににぎ 祇園本店]と[米安珈琲焙煎所...
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道教の教えでは、人の体内には3匹の虫「三尸(さんし)」が棲んでいるという。1年に6度ある庚申の夜、人が眠っている隙をついて三尸の虫が体内から抜け出し、その人間の罪や悪事を天帝に告げ口をするとのこと。天帝は報告された罪の重さによって、その人の寿命を削るというから、恐ろしい。
この虫、上・中・下と三種類がいて、上の虫は白髪やシワを作り、中の虫は五臓を悪くさせ、下の虫は精を悩ませる。その姿は小児に似ているとか、馬に似ていて頭と尾がついているとか、長さ2尺の蛔虫だともいい、なんとも気味悪い虫だ。
なかには誰しも心にひとつ、ふたつ、罪の意識や悪意はあるだろう。いや、自分は何の罪も悪事もない、きれいな人間だという人もおられるかもしれないが、就寝中にその虫が体内から抜け出して、どんな些細な罪でも天帝に告げ口するというのだから、たまらない。その虫を体内に封じ込めておくためには、一晩中、眠らずに過ごさねばならないのだ。
庚申の夜に徹夜する風習は平安時代に中国から伝わったとされるが、江戸時代には庚申待や庚申講などとして、村単位で集まって一晩を過ごし、庶民の間で根付いていった。いわゆる庚申信仰だ。民間伝承としては「庚申の夜に虫が抜け出す」のとは反対に、「庚申の夜に寝ると虫が入ってきて病気になる」との言い伝えもある。
その厄介な虫を封じてくれるのが、コワモテの青面金剛像「庚申さん」だ。また、「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿も庚申信仰の神様として祀られているのをよく見かける。
猿というのは、庚申の「申」=干支の「サル」がこの信仰と結びついたものだとされる。昔から猿は「厄が去る(猿)」という語呂合わせで、縁起のよい動物として扱われてきた。
京都で庚申信仰というと、東山区にある八坂庚申堂が名高い。浅草庚申、天王寺庚申と並んで日本三大庚申のひとつに数えられる。
三猿と日本最初庚申尊の文字が刻まれている石碑
近寄って見ると三猿(見ざる、言わざる、聞かざる)が
描かれているのがしっかりとわかる
そんな八坂庚申堂のさほど広くない境内で一際目立つのが、「くくり猿」だ。手足をくくられた色鮮やかな猿がたくさん吊られたもので、欲のまま行動する猿の手足をくくりつけ、人の中にある欲望を庚申さんに戒めてもらう、のだそうだ。くくり猿に願いを一つ託し、欲望を一つ封じることで叶うといわれている。
本堂の色鮮やかなくくり猿とその前に置かれた三猿
境内のビンツルさんと色鮮やかなくくり猿
さて、庚申の夜だからといって一晩中、起きている自信がないという人もいるにちがいない。では、どうすれば虫が這い出したり、逆に虫が入ってくるのを防げるのだろう?
それにはコンニャクを食べるとよいと聞いた。八坂庚申堂では庚申の日にコンニャク炊きの接待が行われ、参拝者に猿の形をしたコンニャクがふるまわれる。
それを3ついただくと、無病息災で過ごせるという。3つというのは、3匹の虫の数ということだろうか。
では、なぜコンニャクなのか。それは「コン(根)よくヤク(厄)をとる」ということらしい。庚申の日に祈祷してもらったコンニャクを病人の頭の上に置くと病が治るとも信じられてきた。
今年の納庚申は、11月24日にあたる。食べたい、寝たい、欲しいものもいっぱい……、そんな人は納庚申に八坂庚申堂を訪れて、「庚申さん」に欲を戒めていただき、コンニャクを食べて心身とも健やかになってみるのもいいかもしれない。私も、行ってみよう。
八坂庚申堂近くの家の軒先に吊された「くくり猿」
京都の街のどこでも存在する伝承。それは単なる絵空事ではなく、この現代にも密やかに息づき、常に人々と共存し続けている。1200年余りの歳月をかけて生み出された、「摩訶」不思議な京都の「異」世界を、月刊誌Leafで以前「京都の魔界探訪」の連載をしていたオフィス・TOのふたりが実際にその地を訪れながら紐解いていく。。