王道から大人の味わいまで![ホテル日航プリンセス京...
7月に入って京都の中心街を歩いていると、どこからか祇園囃子の音色が聞こえてくる。これを耳にして、「今年も本格的な夏がやって来た!」と実感する人は多い。暑いのは苦手という人も、お囃子のコンチキチンを耳にすると、華やいだ気持ちになれるのが、不思議だ。
祇園祭
祇園祭は、7月1日から一ヶ月間にわたって行われる。昔の京の人々は、疫病は怨霊がもたらすものと考え、疫病の流行をくい止めるため、御霊会を行った。平安時代に行われたその疫病退散のための御霊会が祇園祭の始まりだとされる。
昔の山鉾巡行
この時期は、蒸し暑さがピークになる時期であり、昔は赤痢や腸チフスなどがよく流行したようだ。また、大雨が降ると井戸水はよどみ、食中毒も頻発した。いつの頃からか、疫病退散のための祇園祭は、民衆が楽しむための祭としての要素が強くなっていった。
2014年、150年ぶりに大船鉾が復活し、前祭と後祭にわかれて巡行するようになった。山鉾巡行を見物していて楽しみなのはやはり、大きな鉾が勢いよく回転する辻回しだ。威勢の良いかけ声と鉾が軋みながらグイッとまわる迫力、見物客から沸き起こる拍手で、巡行はいっきに盛り上がる。
辻回しの様子
ところで、この辻回し、よく考えてみると、とても魔除けの要素が強い。というのも、山鉾巡行で辻回しが行われるこの「辻」という場所は、そもそも古来より魔所といわれる。二つの道が十字型に交差しているところは、現世とあの世との境界とか、異界が交わる場所だとされてきた。辻には「辻神」と呼ばれる妖怪が棲んでいて、出喰わすとその人に災いがふりかかるという伝承が残っている地方もあるほどだ。
以前に紹介した「あわわの辻」もまた、京の人たちに恐れられた魔所だった。
魔所で行われる辻回しだが実は、鉾にはたくさんの魔除けアイテムを搭載されていることをご存じだろうか。まず前祭で巡行の先頭を行く長刀鉾が、その鋭い長刀で疫病邪悪を払ってくれている。
長刀鉾
スムーズに鉾を方向転換するため、交差点に敷かれる青竹は魔除けの意味がある縁起物だし、音頭取りが手に持って打ちふる扇は昔から、空気を揺るがして魔を除け、神を招きよせると考えられてきた。お囃子ももちろん、笛や太鼓や鉦などの音色は魔を退散させる魔除けの意味がある。
山鉾巡行は見物客たちを楽しませるだけでなく、辻々でしっかりと邪気を払い、真夏の京都を浄めてくれているのだ。
ちなみに、会所で売られている祇園祭の名物の「ちまき」もまた、厄除けや福招きのアイテムである。ちまきを玄関の中ではなく外側に飾るのは、疫病神がひと目見てそれとわかるようにし、その侵入を防ぐためだそうだ。毎年、買いそびれているので、今年こそ手に入れて玄関先に飾って、ご利益にあやかって酷暑を健康に過ごしたい。
玄関先に飾られている長刀鉾のちまき
京都の街のどこでも存在する伝承。それは単なる絵空事ではなく、この現代にも密やかに息づき、常に人々と共存し続けている。1200年余りの歳月をかけて生み出された、「摩訶」不思議な京都の「異」世界を、月刊誌Leafで以前「京都の魔界探訪」の連載をしていたオフィス・TOのふたりが実際にその地を訪れながら紐解いていく。。