京都にある日本最古のエレベーターが製造・輸入から1...
千年王宮の地であった京都には雅やかな歴史や文化とは裏腹に、今も、魔所が点在するという。そして同時に、そういった魔所が発する災厄を祓ってくれるパワースポットもまた、数多く存在している。
そのひとつが、東山連峰を北から南へ貫く「パワースポット黄金ライン」だ。その一部が、大文字山(如意ヶ岳)・日向大神宮ラインである。毎年、8月15日の夜、五山の送り火のひとつとして、「大」の字形の火床に薪が組まれて点火、先祖の霊を送る「送り火」が焚かれるのが、大文字山だ。京都ではその送り火を見ると、一年を無病息災で過ごせると言われてきた。
銀閣寺道から見た大文字山と大文字
大文字の火床へ登っていくと、その途中、千人塚という石碑に出会う。太平洋戦争時、この碑の近くで多くの古い骨が掘り出されたとのこと。それは戦国時代、この山腹にあった中尾城が陥落した際の人骨ではないかと言われ、地元の人たちの手で供養のための塚が築かれたという。
銀閣寺背後の登り口から足をたくましくして山道を行き、石段を上りきると、大文字の火床に出る。眼下には京都市街のパノラマが広がっている。
カナワの火床から京都市内を望む
吉田山、船岡山、鴨川、御所、平安神宮……。
火床に立ち、絶景を眺めていると、体の疲れがスーッと消え、心が癒やされていく。連綿と受け継がれ、祈りが込められてきた精霊送りの火床には、不思議な力が働いているのだろう。
ところで、送り火後の「燃え木」は、どうなるのかご存知だろうか。実は、銀閣寺付近の民家の軒先には、燃え木が吊されているのを目にすることができる。来年の送り火までの一年間、除災招福のお守りとして信仰されているのだ。
銀閣寺門前商店街の民家の軒先に吊された大文字の燃え木
さて、火床から階段を上がって標高446メートルの頂上へ。三角点を確認し、山道を南へ向かう。途中、六つの方向に分かれる辻に出合う。不思議な名前を持つ「七福思案処(思案の辻)」と呼ばれる場所だ。そこからもうひとつのパワースポットを目指して山道をしばらく進むと、突然、長方形に刳り抜かれた、巨大な岩が現れた。
ここが今、パワースポットとして注目を集める、日向大神宮の「天岩戸」だ。
天岩戸
この穴をくぐり抜けると、穢(けが)れが祓われ、福を授かることができるという。いつ、誰が岩を刳り抜いたのか定かでないらしい。岩の上には屋根が設えられている。穴の中は天井が低く、腰をかがめながら歩く。中は暗くて狭く、L字型になっていて、ちょうど中程に開運厄除けの戸隠神社があり、天照大神を岩戸から引き出したといわれる天手力男命が祀られていて、神秘的な雰囲気をまとっていた。
この天岩戸から山道を下ると、高千穂の峯の神蹟を移して創建されたと伝わる日向大神宮の内宮に出る。
日向大神宮の鳥居と参道
「京のお伊勢さん」とも呼ばれるこの神宮は、昔、東海道を旅した人たちが安全を祈願し、地元の信仰を集めてきた。境内は紅葉の名所で、秋に咲く「十月桜」との共演が見られ、ご利益をいただいた気分になる。
日向大神宮境内の紅葉(昨年の様子)
このように、大文字火床に立ち、山道で足腰を鍛えながら天岩戸と日向大神宮までの東山連峰ルートは、日頃溜め込んだ(!?)邪気を払い落とし、体も心も浄め鍛えられる、まさに黄金のパワースポットラインなのだ。ちなみに健脚であれば、さらに南へと続く稲荷山まで歩けば、さらにパワーがもらえそうだ。
この秋は黄金のパワースポットラインを巡ってみてはいかがだろう。
京都の街のどこでも存在する伝承。それは単なる絵空事ではなく、この現代にも密やかに息づき、常に人々と共存し続けている。1200年余りの歳月をかけて生み出された、「摩訶」不思議な京都の「異」世界を、月刊誌Leafで以前「京都の魔界探訪」の連載をしていたオフィス・TOのふたりが実際にその地を訪れながら紐解いていく。。