
Made in KYOTO/扇子をファッションアイ...
京都ならではの工芸品にスポットを当て、その魅力と新たな挑戦を紹介する【Made in KYOTO】。
今回は手作りの茶筒メーカーとして日本で最も古い歴史を持ち、2025年に150周年を迎えた[開化堂](京都府京都市下京区)をピックアップ。明治の文明開化の頃に誕生し激動の時代に翻弄されながらも伝統的な手作りの技法を守り抜いた[開化堂]の茶筒は、今や世界に認められる工芸品となりました。現代のライフスタイルに合わせた新商品を生み出す六代目の八木隆裕さんの挑戦や工芸品への熱い想いに迫ります。
茶筒の蓋を閉める際、手を離すと蓋の重さだけでスーッとゆっくり下がっていく。また蓋を開ける時には、空気を掴むような独特の感触が手に伝わってくる。この何とも言えない心地よさが、[開化堂]の茶筒が誇る気密性の証だ。
「[開化堂]の茶筒は100年以上前に初代が確立した製法を、職人から職人へと受け継いできたもの。完成までに130余りの工程がありますが、現在も一つひとつ手作りで行われています」と八木さんは話す。案内された工房では、職人さんが分業して一心に茶筒の製作に取り組んでいた。
茶筒の素材は銅と真鍮、ブリキの3種類。サイズに合わせて板を裁断する作業から始まり、丸めて真円を作り固定してハンダ付けを行う。そして底入れをしてその部分をハンダ付けし、何度も手で感触を確かめながら微妙な調整を行い、磨いて仕上げるのが主な流れだ。
どの工程にも正確さと繊細さが求められ、経験を重ねた高い技術が必要とされる。
蓋や胴の糊しろ部分に溶剤を塗り、火で熱を加え行うハンダ付け。素材によって溶解する温度や時間が異なるため、その一瞬を見極めるのも職人技
「蓋と胴を合わせ回してみて固くないか緩くないか、手の感覚のみを頼りに仕上げます。私が一番大切にしているのは、茶筒を開けた時の気持ちよさ。大切なものを入れたいと思ってもらえるように、使い心地と機能性を兼ね備えることを目指しています」。
蓋の底入れをした後に高さなどを調整する作業。創業時からの古い道具を使い、音や見た目、感触など五感を研ぎ澄ませて行う
[開化堂]の茶筒は機能性に加えて、見た目の美しさも大きな魅力。素材である銅は赤色とオレンジ色の間のような色味、真鍮は金色、ブリキは銀色といずれも光沢をまとい凛とした印象があり、手で触れて使い続けるうちに少しずつ色が変化し、味わいが出てくるのも特徴なのだそう。
「これは何十年も経ったものですね」と、八木さんが店のディスプレイから茶色や黒色の濃い色味に変化した茶筒を見せてくれた。「使う人や使い方によって変化する色が違うんですよ。例えば野菜をたくさん食べている人と肉をたくさん食べている人とでは手から出る油分や汗などのアルカリ性・酸性の強さが変わってくるので、金属の反応も異なります」と興味深い話も。
[開化堂]の茶筒は持ち主の密やかな日々の暮らしも映し出してしまうのだ。
そして茶筒の蓋と胴の高さの比率にも秘密があるのだそう。「[開化堂]の茶筒は実は白銀比なんです。ミロのヴィーナスなどに代表される黄金比に対し、白銀比は日本人になじみのあるアニメキャラクターの比率。茶筒は毎日使う道具なので、完璧な美しさよりも親しみが持てるようなものであればと思っています」。
※白銀比とは、およそ1:1.414(5:7)の比率のことで、「大和比」とも呼ばれ日本では古くから大工の間で神の比率とも言われている比率
珈琲缶やパスタ缶など現代の生活で実用できる商品が多数
八木さんが六代目になってから生まれた商品も多く、これまで珈琲缶やパスタ缶、ナッツ缶などが、ライフスタイルの変化に合わせて作られた。なかには若い職人のアイデアで生まれる商品もあるそう。
また[パナソニック]と共同開発した茶筒型スピーカーなど、代々受け継がれてきた技術と洗練された美しさが現代のプロダクトと融合し、意外な製品も誕生した。
2018年に100個限定で発売し、即完売したというワイヤレススピーカーの『響筒(きょうづつ)』30万円。蓋を開けるとスイッチがオンになる仕組み
今では京都を代表する工芸品の一つである[開化堂]の茶筒。1875(明治8)年創業の老舗の歩みを振り返れば、時代に翻弄されながらも茶筒を守り続けてきた先代たちの想いがにじむ。
「[開化堂]はイギリスから輸入したブリキを使って茶筒を作ったのが始まりです。第二次世界大戦の時は物資が不足するなか道具を守り、戦後の機械による大量生産の風潮のなかでも手作りを貫いた。もし機械化していたら、今日まで作り続けることはできなかったと思います」。
八木さんが五代目の父の下で修業を始めた2000年から現在までも、大きな時代の変化を感じていると言う。「私が跡を継ぐ時には『この仕事を続けても将来食べていけへん』と言われました。でも私には、そんなことはないはずだという想いがあって。[開化堂]の職人を憧れの職業にしたいという目標を掲げ、これまでやってきました」。
六代目として創業者から続く技と想いを継いだ八木さんは、海外の市場にも目を向けた。それまで卸売のみだった販売方法を見直して店舗を構え、国内だけでなくロンドンや台湾、バンクーバーなど海外でも実演販売も行うようになったそう。「20年前はほぼ0だった」という外国人客は、今では全体の約7割を占める。「この20年ほどで工芸品や職人に対する考え方の風向きが変わり、その価値が高まっているのを感じられて嬉しく思います」。
2016年、[開化堂]が「開化堂の応接間」をコンセプトに開いた[Kaikado Café(カイカドウ カフェ)]にもお邪魔した。カフェを始めたのは、五代目である父の『引退したら喫茶店をやりたい』という一言がきっかけだとか。
「京都市電の車庫だったこの建物を私が以前から好きだったので、改装してカフェにしました」。文化財でもある洋館の建物は天井が高く、中庭が設けられた開放的な造り。席同士の感覚も広めに取られているのでゆったりと寛げ、街中の喧騒を遠くに感じられるような静かな時間が流れる。
「ここは若い人も含めた幅広い世代に、さまざまな工芸品を体験してもらう場所にしたいと思っています。店で使用している宇治の[朝日焼]のカップをはじめとした工芸品は販売もしており、実際に使って気に入ったお客さんが購入されることもありますよ」。
Kaikadoチーズケーキセット1950円。[Kaikado Roastery]のブレンドコーヒーはまろやかで余韻を感じられる味わい。オリジナルのチーズケーキは茶筒の形を模しており、上のクリーム部分は蓋をイメージ
提供されるメニューは2023年にスタートした自社焙煎所[Kaikado Roastery]のコーヒーをメインに京都の[丸久小山園]や[利招園茶舗]の日本茶、ロンドンの[Postcard Teas]の紅茶など、いずれも八木さんが心からおすすめするものばかりなのだとか。
「2025年で[開化堂]は創業150年を迎えます。茶筒は年月を重ねても“伝統工芸品”ではなく、あくまで“工芸品”という意識を持っています。伝統という言葉を使うとそこで止まってしまう気がして、あまり使いたくなくて。サカナクションの山口一郎さんの言葉を借りて表現すると『変わらないまま変わっていく』というイメージですかね」。
そう語る八木さんの側には、ブリキの茶筒をモチーフにした150周年記念キャラクター・Blik!(ブリック)君のグッズが並んでいた。親交があるという九谷焼窯元[上出長右衛門窯]の六代目で美術作家の上出惠悟さんがデザインしたコミカルで愛らしい雰囲気のキャラクターは、老舗の更なる展開を期待させてくれる。
そして八木さんは先を見据え、新たに考えていることがあるそう。「今使っている素材が100年後、同じように手に入るかはわかりません。廃棄されたブリキ缶などの素材を[開化堂]の技術で再生して、新しい作品にできたらと作り始めています」。
取材したこの日は、茶筒の展示会を行った中東・バーレーンから帰国したばかりだった八木さん。活動的に世界を飛び回り、六代目として[開化堂]の未来を背負う頼もしい姿が印象的であった。
【六代目当主 八木 隆裕さん】
1974年生まれ。2000年から[開化堂]に入り修業し、六代目を継ぐ。2012年に京都の伝統工芸を担う同世代の後継者とクリエイティブユニット「GO ON」を結成。国内のみならず海外市場にも積極的に進出している
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